The Sign of Four – 四つの署名(四つのサイン)

阿部知二訳 東京創元社 1960年初版発行 

長編二作目である。
ワトスン君が未来の妻メアリーと出会いプロポーズする回でもある。

いきなり冒頭から、ホームズがガチのコカイン中毒者で
ワトスン君が苦言を呈するという微笑ましいシーンから始まる。

ストーリーはインドの財宝をめぐる殺人事件なのだが
なにしろ絶版になった阿部知二訳で読んでいるので
新訳にはない際どい翻訳があって興味深い。

途中、捜査でへとへとになったワトスン君をソファに寝かせて
子守唄代わりにヴァイオリンでオリジナルの曲を弾いてあげるシーンが
一番好きかな。

途中のこの一文が好き。
むさくるしいごろつきどもだが、ひとりひとりのなかに、不死の生命のちいさな火花が、ひそんでいるのだ。

そして、メアリーにプロポーズしてすっかり高揚しているワトスン君にむかって
重たいため息をつきながら「ま、僕はしないけどね」と言いいつつ
コカインの壜に手を伸ばすシーンで締められている。

コカインにはじまり、コカインに終わる
これは小学生向けの翻訳にはさすがに載せられない
本物のホームズなのであった。

巻末の解説でも触れられていたが、「緋色の研究」では
ワトスンは肩に銃槍を受けたと書かれているが
本作では足の戦傷が時おり痛むという描写がある。
何度かホームズがワトスンの足を気遣うシーンがあるのだが
BBCではこちらのほうをとったのだな。(しかも心因性というふうに転じているのがうまい。原作の齟齬のせいで、ワトスン君の戦傷は実は局部だったという説まで出ているそうなので彼の名誉のためにもBBCの演出は素晴らしいのである。)

最後のゲーテの引用
自然がお前を、ただ一人の人間にしか創らなかったのが惜しまれる。
誉むべき人とも、悪漢とも、なれる素地のあったものを。